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魔法が切れるのが嫌で、目をいじつた話

魔法が切れるのが嫌で、目をいじつた話 エッセイ

みんな「あゆ」になりたかつた

生まれつき、シンプルな一重瞼だつた。でも、メイクを覺えてから、自分がつけまつげを付けると自然に二重になることに氣が附いた。

ぱっちりとした二重の自分は、とても可愛くて、無敵だつた。けれど、つけまつげを外せば、その魔法はとけてしまふ――その事が、何より殘念だつた。

だから私はある日、一念發起して、近所の美容整形クリニックに「二重施術がしたいです!」とメールを送つた。今思ふと、さういへば金額とか氣にしてなかつた。

カウンセリング~施術

メールの返信で指定された日時に、美容整形クリニックへと赴いた。

まづはカウンセリングから始まつた。

「うーん、眼瞼下垂になつてますね」

やはり。
つけまつげをして何年か經つて、自分の目が小さくなつてゐることに、うすうす氣づいてはゐた。
でも、見ないふりをしてたのだ。だつて、つけまつげをしたら、それも見えなくなるから。

カウンセリングの女醫さんが、あれこれと目に癖を附けて「かはいい角度」を探してくれる。
一番かはいい角度は、やはり華やかで、ぱつちりとした二重だつた。

「ところで、施術のお値段ですが……」

電卓に表示された金額は、決して安くはない。
といふか、たぶん相場より高い。
でも――可愛いになるのに、もはや私は私を止められないのであつた。

施術は、男性のお醫者さんがしてくれた。麻酔を瞼にして、それが效いた頃、手術が始まる。
糸で瞼をクイッ、クイッと引つ張る感覺があるが、痛くはない。

施術は、あつといふ間に終はつた。呆氣ないくらいだ。

(多分)永久に解けない魔法・四點留め

施術が終はつて、女醫さんが手鏡で私の顏を見せてくれた。

「刑部さんつて、黒目大きいんですね! 二重もよく似合つてます!」

確かに、二重になつた私は――手術後で少し瞼が腫れてはゐるが――黒目が大きく、割つたばかりの黒曜石の樣な黒黒とした輝きがしつかりと燈つてゐる。

意外とかういふものは腫れが殘るかと思つたが、一週間程で引いた。

歸宅した時に、豫め整形する事を打ち明けてゐた母には「いいぢやない、二重も似合つてる」と云つて貰へたし、正直、ほとんどの友人や知人は整形の事を云はなければ全然氣が附いてないのか、知つてゐて云はないのか分からない、が、他人の評価は兔も角、私が私を可愛いと思へれば、それで良いのである。

しかし、寢起きで鏡を見るたびに「素つぴんでもかはいい私」がゐる。これは衝撃だつた。やつて良かつた、と心から思つた。

整形はすべてを解決、は、しない

二重整形から10年以上經つて、未だにしつかりと二重のみぞは私の瞼に存在してゐる。醫師の腕が確かだつたのだらう。あの日施された「四點留め」の魔法は、今も瞼にしつかりとかかつてゐる。

今の私は、昔の樣に「可愛く/美人にならなければ」と必死になつては居ないし、整形したからと云つて、「あー、死にたい」と思はない日が無くなつたと云へば嘘になる。

だが、私が私としてかはいくなる爲に、確實に一つ「いつも一重を氣にしてゐる」といふ惱みが減つたのである。なんならつけまつげと糊の代金が浮いて、高かつた施術料だつたが、その分またお得であつたとも云へるのである。

この魔法は、灰色の世界は變へてはくれなかつた。でも、私の心を變へてくれた、高かつたけれども、自分史上最高のお金で買へる魔法だつた。

アイプチの科学:無理なアイプチより整形の方がお得な事もある 

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